時事旬報社

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金正恩 命を賭けた大勝負(5):第2次朝鮮戦争の勝算

第2次朝鮮戦争のシナリオ(2)

作戦の第一段階(開戦後1週間程度)

 軍事作戦の第一段階は、国境からソウル市北岸部(漢江北岸)一帯を完全占領し、漢江南岸の江華島(仁川空港)、仁川港、汝矣島、江北地区(金浦空港)江南地区の重要地区に進出、領域占領するとともにソウル市近郊の駐留米軍基地(第7空軍基地:烏山、水原)等重要戦略地を急襲、拠点占領を行なう。
 作戦地域は基本的に京畿道以北とし、韓国南部については米韓軍の拠点、港湾、交通通信網、社会インフラ施設等要所を空爆ないし工作員の破壊活動により撃破、無力化する。作戦第一段階の目標完了後は、速やかに漢江北岸の防備を固め、領域・拠点占領軍については、死守ライン(北岸)を維持支援するための防衛体制を整備する。
 なお、例外的に開戦と同時に空挺部隊と潜水艦揚陸部隊は協力して、釜山、慶尚北道に進出、当地の原発(古里、蔚珍、月城)を襲撃奪取する。特殊部隊ならびに核技術者を進駐させ原発を飛び地占領し、速やかに爆装、命令によりいつでも原子炉を破壊する体制を維持する。

作戦の第二段階(開戦後1ヶ月程度)

 作戦の第一段階は一週間程度での完了を予定。在日米空軍を主軸とする強力な反撃により、半島全土の制空権はすでに喪失しているが、陸上部隊の本格的な反抗は未だ一ヶ月後と想定される段階で次の作戦を発動、北朝鮮による戦争シナリオはここからが正念場となる。北朝鮮をして戦争勝利に導くマスタープランでは、以後、国力を総動員する消耗戦は回避しなければならない。第二段階の作戦として作戦地域の占領後、一ヶ月以内に以下を敢行する。

人質

 ソウル地域には約1000万人が居住する。韓国に滞在する外国人は約200万人でほとんどがソウルに集中する。戦争と同時に難民としてソウルから多くが脱出するであろうが、少なくとも占領地において数百万の単位で市民、外国人を拘束することになる。
 占領軍は速やかに占領統治体制を整え、外出禁止など行動を制限、拘束者を戦争抑留者として概要を調査し、特に外国人に関しては、国籍で分別し、現地任意施設に分散収容する。また米軍捕虜については、無条件に北朝鮮内の捕虜収容施設に移送、分散収容する。敵性外国人であるアメリカ人、日本人についても、原則北送し、米軍捕虜に準ずる扱いとする。また事前にリストアップした捕縛要人(韓国人、外国人問わず)も本国に移送する。
 ソウル市民については、交通網、社会インフラ従事者など社会活動の基盤を運営する者を除き、占領後1~2週間程度自宅拘束し、以後、食料の配給など部分的に屋外活動を緩和しながら、監視と統治を続け占領政策を進める。なお、占領軍の軍事的重要施設周辺には近隣住民、外国人を移送し、人の盾とする。この人質作戦が、戦争を勝利に導く核心戦略であり、現地指揮官は、軍の規律を高度に維持し、市民との不用な衝突、戦争犯罪が発生せぬよう努めねばならない。
 北朝鮮の軍事行動は完全に国際法を遵守しており、人道に配慮していることを印象付け、戦後の親北世論醸成を意中に、占領地の市民や外国人の負傷者看護、物資の平等な分配など入念に対応し、講和工作に国際世論と韓国世論を味方とするよう企てる。
 なお、1000万を数える市民の給養は困難であるところから、漢江北岸地域に関しては避難民の南下を黙認する。外国人についても同様の措置とするが、捕縛したアメリカ人と日本人抑留者については、北送する。また、大使館については、アメリカと日本以外はその館員の身分と活動を保証する。

外交

 休戦協定の破棄により、アメリカ、韓国とは自動的に戦争に突入するが、日本との関係が曖昧であることを外交で突く。朝鮮有事により日本は安全保障関連法案(安保関連法)に基づき、米軍の後方支援に動き出すが、武力の行使と一体となす兵站戦時国際法上、戦闘行為と解される。日本は北朝鮮に宣戦布告もぜず、軍事行動を行なっていることを国際社会に訴え、日本の自制を求める。
 同時に国連その他外交チャンネルを通じ、北朝鮮は日本に宣戦しておらず、日本と交戦する意志もないことを宣言し、日米の離反工作を展開する。その間、特に日本人抑留者の中に多数のスパイが見つかったことを発表、抑留者帰国を中断するなどして、日本をして、戦争荷担よりも自国民保護が優先であるとの国内世論を扇動し、日米連携を牽制する。

国際報道

 各国報道機関の取材を受入れ、占領統治の規律が維持されていることを世界に伝えるとともに、中国・ロシアの一部報道機関については、(1)占領軍重要施設周辺に収容された市民・外国人「人の盾」を公開し、韓米軍の空襲を牽制するとともに、(2)ソウル市内に密かに移送した核爆弾の設置状況を公開、(3)拠点占領した韓国南部原子力発電所の爆装状況を公開し、最終手段として無数の人命と差し違えて核自爆を決行する決意であることを特報させる。
 なお、制空権を失った北朝鮮は、ピョンヤンを初め本国内陸の都市や軍事・核施設が米韓軍の爆撃を受けるが、緒戦で捕縛した米軍捕虜、アメリカ人、日本人の抑留者を移送、人の盾とし配置していることを外国報道機関を通じて発表、逐次、爆撃で犠牲になった米兵や一般人のニュースを繰り返し報じる。

物資・財物北送

 燃料や物資備蓄基地で接収した物資は、現地作戦使用分を残し北送する。また韓国銀行(中央銀行)や市中銀行、更には博物館・美術館、貴金属店等から財物を接収し、北送する。制空権消失後は、陸路輸送が困難となると予測されるが、地下鉄や下水道などソウルの坑道網や南進トンネルなど地下物流網を活用しながら、講和締結まで北送を続ける。
 金融機関から接収した通貨(ウォン)については、(1)工作員を通じて海外や韓国南部(非占領地域)に移送し物資調達の資金とし、また、(2)占領地区内での市民の雇用等で消費する。

インフラ復興と親北政策

 電気ガス水道等の社会インフラ、鉄道・道路等の物流網を整備し、都市機能を再開する準備を進める。制空権を喪失しているので、復興と破壊の繰り返しとなるが、市民を徴用し再建を進める。なお徴用に際しては、労働環境に配慮し、労働者を隷属させることなく、報酬は接収したウォンを活用し、破格で処遇する。
 また、残留低所得者については市内の投資目的未入居住宅や戦争避難民として離散し空き家となった住居を接収、無償譲渡、登記簿に記名するなどして、親北世論醸成に努める。

作戦の第三段階(開戦後3ヶ月以内)

 占領地統治が安定した段階(開戦後1ヶ月程度)、米韓軍の本格的な陸路反抗作戦が開始される前に、アメリカ・韓国に停戦を呼びかける。戦争勝利の方程式は「停戦の可否」が勝負所であり、停戦から講和へとねじ伏せることによって完結する。米韓陸軍の反撃はソウル奪還を目指すのは当然、戦術としては銃後へ上陸し、ピョンヤンを占領し包囲戦に持ち込む等も想定されることより、本格的な地上戦に先立ち停戦を実現せねばならない。
 停戦は休戦とは異なり、特定の目的により戦闘を一時的に中止することを意味するが、この場合、「特定の目的」とは、「市民・外国人の非戦闘員を戦闘地域から退去させる」ことを名目とする。非戦闘員を戦場から避難させる人道的停戦であるから、国際社会も拒否する理由はない。特に不運にも戦争に巻き込まれ抑留者を抱えてしまった第三国としては、自国民救出を最優先とするのは当然であるから、停戦実現は可能性が高い。
 首尾良く停戦となれば、抑留者避難の実務交渉となるが、以下の条件を死守する。

  1.  韓国市民の避難については自らの責任において米朝が取り決めた避難地に自力で陸路脱出する。
  2.  外国人の避難については、一旦占領軍の統率により国別に分別、鉄道路もしくは陸路により北送、以後漸次、丹東他中朝国境地域の中国領内で開放する。
  3.  人道的停戦実施中は、抑留者移動に必要となる物資(食料、医薬品、燃料等)は、国際社会が負担する。


 人道的停戦は、隠れた軍事作戦である。占領地離脱を許可したにもかかわらずなお占領地区に滞留する韓国市民は、将来の親北勢力となる可能性があり、反北勢力が占領地から退去すれば統治にとっても好都合といえる。一方、外国人の開放は重要な作戦であり、以下の段取りとしなければならない。

  1. 外国人の引き渡しは、中国、ロシアなどの友好国から優先的に実施し、欧米人、日本人の開放はスパイ容疑者が潜入しているなど理由をつけては事あるごとに遅延させ、小出し開放を繰り返す。
  2. 北送開放は、鉄道路、陸路をもって実施するが、輸送は定期経路を設定せず、状況により随時任意に行なわれるものとし、移動に必要な経費は、上記3.により受益国の負担とする。
  3. 外国人移送後の復路については、戦略物資他必要資材の輸入に活用する。


 結局のところ、人道的停戦の目的は「時間稼ぎ」であり、この間、物流網の安全を確保しながら占領体制を固めるとともに、抑留各国の極度の緊張感を持続させながら、問題解決が長期化するにしたがって、次第に国際社会をして戦争の早期終結を欲する方向へと押し流す「人心の消耗・神経戦」が本旨である。「生きて帰ってくる」希望を焚きつけながら、「希望が失望に変る」を繰り返されると精神的消耗は激しい。そして、思うように開放が進展しない第三国の焦燥感が沸点に到達するタイミングを待ち、戦争勝利の仕上げ「講和会議の提案」を行なう。

作戦の第四段階(開戦後半年以内)

 人道的停戦開始後、米軍捕虜の返還交渉をアメリカと始めるが、「捕虜の帰国は戦争の終結」が条件であることを主張する。総合的軍事力で勝る米韓が緒戦敗北状態のまま講和を受けいれることはないが、上述、国際世論の早期戦争終結希求を追い風としながら、半島問題を完全かつ最終的に解決するため以下の和平提案を行なう。

  1. アメリカを初め国際社会は、北朝鮮を核保有国として認知する。
  2. 講和条約締結後、朝鮮半島からあらゆる外国軍は撤退する。
  3. 北朝鮮ならびに韓国は、中立国を宣言し、全ての軍事同盟を破棄する。
  4. 外国は北朝鮮ならびに韓国の内政に一切干渉しない。
  5. 北朝鮮と韓国の戦後処理は、この二国の政府と人民の意志のみで決定する。


 1.2.4.は、国体護持(金正恩体制)の担保である。その内2.は、第1次朝鮮戦争の休戦協定(1953.7)の遵守を意味し、60年余に渡り協定違反を続けたアメリカが今次戦争の悲劇を招いたと、その帰責性を国際世論に訴え、アメリカに対する各国の講和圧力増幅を期す。
 3.は、韓国の米韓相互防衛条約、北朝鮮中朝友好協力相互援助条約をそれぞれ破棄することを意味する。この結果、半島二国の国防は、自主防衛に委ねられることになるが、中立を宣言し、相互不可侵を確認するというのであれば、第三国が拒む理由はなく、平和な社会の到来を目指す国際社会の崇高な理念にも合致する。中朝条約の一方的な破棄は、中国を不快にするであろうが、半島の平和実現を中国が妨害することもできず、北朝鮮が韓国に吸収統一され、西側勢力圏が中国国境に迫るわけでもないので、中国としても容認する他ない。
 4.5.は、従来休戦協定もなかった北朝鮮・韓国間の講和を二国が自主的に行なうことを意味し、不健全な関係を平和的に解消する前準備である。同時にまた、この2項目は、裸となった北朝鮮と韓国との間で「平和的統一を協議する」との美名に隠された次なる北朝鮮の野望実現の仕込みでもある(詳細は次号)。

 講和は米韓にとっては屈辱以外の何物でも無い。しかし抑留者の一刻も早い帰国を待ち望む国際世論。講和破談によりソウル市内に設置された核爆弾や爆装された韓国原発が自爆すれば、人的物的損害が歴史的な惨禍となる切迫感は尋常ではなく、「それでも」戦争を続行するとの意志堅持は容易ではない。
 講和を締結すれば、「抑留者・捕虜の即時現地開放は勿論、占領軍全軍の撤退、市内設置の核爆弾の撤去ならびに原発の爆装を解除する」と確約すれば、米韓が「折れる」可能性はある。そして実際折れるのであれば、この戦争は北朝鮮勝利だと云っていい。アメリカとしても「悩みの種である無法国家北朝鮮との縁が切れる」となれば、逆に安堵の境地に至るかも知れない。しかし北朝鮮の破天荒な底意は、この勝利で「終わり」とはならない。
                                                                         (つづく)

【国際部半島情勢デスク】2017.9.21配信