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金正恩 命を賭けた大勝負(6):第2次朝鮮戦争の勝算

  第2次朝鮮戦争のシナリオ(3)  第2次朝鮮戦争のシナリオ(3)

 

 「ロケットマン」と揶揄すれば、「老いぼれ錯乱した犬」と罵る。トランプ大統領の国連総会演説後、米朝の舌戦は益々過激になるばかりである。このまま「(北朝鮮)完全破壊」あるいは「(アメリカ及び同盟国に対する)史上最高の超強硬対応措置」へと突き進んでしまうのだろうか。

 しかし客観的に考えれば、北朝鮮がここまでエスカレーションするのは少々不可解でもある。係争点が北朝鮮の核と弾道ミサイル開発であることは明白であるが、「その係争に勝利して北朝鮮に何が得られるのか」を考えれば、「別段、係争しなくともすでに『得ていた』」と言えるからである。


 多くの国際紛争は領土問題に起因する。しかし今次紛争の直接原因が、北朝鮮の領土的野心にあるとは思えない。南北統一は宿願であろうが、吃緊に韓国を武力統一する必要に迫られ核と弾道ミサイルの開発を急いだと想定することはできない。では、何故、国際的な緊張を高めてまで「急いだ」のかといえば、金正恩体制の維持(国体護持)以外に理由は見つからない。

 しかし、対米関係で言えば、金正恩体制は安泰であったといえる。アメリカの軍事優先課題は、ISやシリアなど中東地域であって、「おとなしくしている」のであれば、(アメリカにとって)北朝鮮など特段の関心事ではない。鼻先で行なわれる米韓軍事演習が「癪に障る」としても、無視していれば、米韓軍が突如として北進、北朝鮮政権を壊滅する軍事作戦をおこす虞は皆無に等しい。理屈の上では、国体維持は核とミサイル開発を加速するほうが、遙かに危うい。

 

 それでも「危険を冒してまで核に固執する」のは何故か。核開発を放棄したリビヤやイラク独裁政権が結局崩壊した前例より、核を手放すことは、自らの失脚に直結すると考える金正恩の脅迫観念に拠るとする一説もある。しかしリビヤは民衆蜂起の結果であり、内政問題の帰結であった。イラクは「大量破壊兵器保有している」ことが開戦の口実であり、事前に不保持が明確であれば戦争にもならなかった。

 したがって、核を「持っていない」よりも「持つ」方が、国体護持の対外的リスクは増す。そうなると、核とミサイルを急ぐ現政権の底意とは、中長期的な理性的展望に基づくというよりは、経験の浅い若輩指導者が一時の感情に駆られ、気分次第、幼稚な動機で国策を決めているのかと疑いたくなる。実際にソウであるのかもしれない。

 もしソレで、(本当の)大国「アメリカ」の逆鱗に触れ、北朝鮮が壊滅すれば、金正恩は半島史最悪の大姦として名を残すことになるだろう。

 

 核でアメリカと対決するならば、北朝鮮に勝ち目は無い。大国アメリカの小指を噛みちぎる位はできたとしても、北朝鮮は八つ裂きにされ滅亡する。ハイテク兵器やミサイルなど金がかかる戦争も北朝鮮には分がない。所詮、貧乏人が大金持ちにケンカを売っている現状に抗うことはできない。

 しかし史伝に学べば、寡(小)をもって衆(大)を打ち破った前例はある。前号に続き、金正恩が希代の知将であることを前提として、小国北朝鮮が、大国アメリカとの戦闘に勝利し、民族の宿願を達成するために「何ができるか」、「何をするべきか」の可能性を追う。


 前号までにすでに戦争は終結している。知略でアメリカに打ち勝つため、奇襲攻撃により、ソウルを占領。数百万単位の市民、外国人を抑留し人質とする。非戦闘員(人質)の戦闘地域退去を名目に米韓軍と休戦を申し入れ、意図的に米兵捕虜の返還牛歩交渉を続け、小出しを繰り返す外国人人質の帰還事業、ソウル市内に設置した原爆と奪取した韓国原発の爆装を盾に、業を煮やした国際世論が、戦争の早期終結を求める圧力に変るのを待ち、休戦から講和へねじ伏せ、戦争は終わる。

 金正恩をして戦争勝利の目的を達成できたのであるから、「これで終わり」と済ますこともできる。しかし希代の知将であれば、ここから最終目的、すなわち北による南の吸収統一という政治戦が始まる。


 細工は、すでに講和条約に仕込んだ。講和条件は、「条約締結後、朝鮮半島からあらゆる外国軍は撤退する」、「南北は中立国を宣言し、全ての軍事同盟を破棄する」、「外国は南北の内政に一切干渉しない」、「南北の戦後処理は、南北二国の政府と人民の意志のみで決定する」である。これが実現できれば、後は仕込みを活用し、韓国を料理するだけである。

  占領統治

 知将による北朝鮮の悲願達成は、休戦から講和に至る北朝鮮によるソウル北岸の占領統治(仕込み)から進む。戦後、北朝鮮と韓国による和平交渉は、外国の干渉を受けること無く二国の政府間交渉として進められるが、一般的に民主国家と独裁国家の交渉では、独裁国家が主導権を握りやすい。民主国家の政策決定は、民主的手続により多くの意見を集約、少数意見への配慮を必要とするが、独裁国家の場合、独裁者の一存で全てを決することができる。従って、独裁国家の国論は容易に一枚岩たりえるが、民主国家では世論の結束を乱す「ほころび」を常に繕いながらの対峙が求められる。独裁国家としては、自国に有利な民主国家のほころびに加勢すれば、比較優位できる。

 この「ほころび(亀裂)」を占領統治期間に植え付けておくことが、戦後戦略の最初の一手となる。第2次朝鮮戦争休戦から講和に至るまで、半年程度を想定するが、「植え付け」は主に占領地区の韓国市民(ソウル市民)を対象に実施し、戦後韓国の資本主義秩序を混乱させ世論分断を謀る。


    資本主義秩序の混乱

 資本主義秩序を混乱・破壊するため、占領軍司令部は市民に対し、体制が社会主義政体に移行したことを宣言し、以下を発令する。

 

  1.  旧体制の金融システムに依存する借財(融資や借金)の一切を無効とする。 
  2.  希望者に占領地区内に放置されている不動産(未入居住居、土地、南下難民所有住居)の無償譲渡とその登記。
  3.  接収貨幣(ウォン)の分配。
  4.  生活物資(食料他生活用品等)の平等な配給。

 1.は、北朝鮮政府の名の下に実施される徳政令であり、金融機関等に保存される貸付け台帳の焼却を実施する。講和後、韓国政府による金融元台長復元を妨げるため、ニセ台長の作成やサイバー特務部隊による銀行ネットワークのハッキングを実施、徹底して金融証文の破壊に努める。

 2.は、占領地区抑留市民を対象に希望する空家空地を提供し、北朝鮮政府の名の下に正当な所有権者であることを登記する。南下難民住居であっても不在家屋については居抜きのまま居住を許可譲渡する。講和後の不動産元台長復元を妨害する点については、1.と同じである。

 3.は、韓国銀行(中央銀行)他占領地区の金融機関、更には企業、店舗から接収した紙幣を配給ならびに占領軍への労務提供の報酬として分配する。状況が可能であれば、大田の韓国造幣公社(忠清南道地域)に技師を派遣し、紙幣を大量増刷するなどして講和締結前にかき集めた韓国紙幣(現金)を全て占領地域市民に大盤振る舞いする。

 講和後、元台長の復元により不動産や債権(借金)については秩序再生の余地はあるが、ばらまかれてしまった現金については、その出所を追跡できず、和平後の韓国世論を分断するために効果的である。戦後韓国では通貨改革が必要となるであろうが、現有現金の出所が正当か不正かを区別する方策はない。

 4.は、北朝鮮政府の名の下に社会主義政策として実施され、接収生活物資や外国からの支援物資を平等に配給することにより、占領統治市民に対し印象操作を行い、戦後の韓国世論の攪乱を期す。


 なお、上記1.2.3.については、和平後も北朝鮮の立場として、占領統治で認めた韓国市民の権利は、不変であり完全に保証する旨、喧伝を続け所有権に基づく資本主義の矛盾を突く。

  南北講和会議

 第三国の干渉を排除して北朝鮮と韓国の二国間協議として戦後処理の交渉を開始、以下の講和条件を実現する。

 

  1.   北朝鮮と韓国は、戦前の領土と主権を双方に尊重し、国交を正常化する。 
  2.   二度と戦火を交えないことを確認し、平和条約を締結する。
  3.   将来の平和的統一の協議を開始する。
  4.   政治的経済的交流を進め、国民、資本の相互移動を自由化する。

 3.は、交渉の過程で、EU型の統一経済圏構築を提案し、政体としては緩やかな連邦制を促す。4.による韓国資本の北朝鮮進出等、実体の成熟を待ち、既成事実としての統合を重ね、タイミングを図り通貨統一や連邦大統領選出へと導く。

 無論、金正恩の連邦大統領就任が最終目的であるが、このプロセスの途上、周到に以下の宣撫工作を展開する。

    宣撫工作

 金正恩連邦大統領実現を期すため、占領期の資本主義的秩序混乱で育成した親北勢力の拡大強化を努めながら、下記プロパガンダを繰り返す。

 

  1.  韓国の建国(1946年)以後、繰り返された軍部、歴代政権の腐敗と悪行を暴露。
  2.  反米、反日世論の熱狂を扇動。
  3.  財閥(資本家)の腐敗と資本主義矛盾の暴露。

 1.では、現在の韓国では史実追求が御法度となっている以下暗黒史等を暴露し、その実体究明世論を煽る。

  • (1)済州島4.3事件(1948年)  韓国政府軍による済州島民の虐殺事件。島民の5人に1人(6万人)を殺害。
  • (2)麗水・順天事件(1948年) 韓国政府軍による民間人虐殺事件。8000人を殺害。
  • (3)国民保導連盟事件(1950年夏) 韓国軍憲兵による国民虐殺事件。非武装の市民60万~120万人を殺害。
  • (4)国民防衛軍事件(1950年冬)韓国政府による無計画な青少年強制移動(死の行軍)により数十万人が死亡。
  • (5)光州事件(1980年)    軍事政権による光州市民虐殺事件。死亡者200人~2000人。 

 

(1)から(4)は、(第1次)朝鮮戦争と関係しており、2.の反米扇動と符号させ、南鮮傀儡政府の非人間性を殊更鼓舞する。

 

 2.については、そもそも第2次朝鮮戦争勃発の主因は、「朝鮮半島からあらゆる外国軍の撤退」を定めた(第1次)朝鮮戦争の休戦協定をアメリカが無視したことに帰結することを強調、更に老斤里事件(1950年。米軍による韓国戦争避難民虐殺事件。300人死亡)等、アメリカの戦争犯罪や事件を掘り起こしては過剰に糾弾、史実解明と保証を求める国民世論を啓発する。

 いわゆる慰安婦問題は、反日のみならず反米にも援用する。「慰安婦」との用語は、1980年代まで韓国政府公認の米兵相手の「性奴隷」を意味しており、当初、日本軍に隷属した性奴隷と区別するため「従軍慰安婦」なる造語を作った経緯を告発、北朝鮮の元日本軍慰安婦、元米軍慰安婦を舞台に上げ、(真偽はともかく)赤裸々な「実話」を告白、世論を激高、少女像を反日、反米のシンボルに止揚し、その量産を進めると共に日米に対する陳謝と補償要求を社会運動に高め、歴代親米政権の偏向を攻撃、反日反米の火矢を放ちつつ、反日反米の嫌悪が、極悪な韓国歴代政権の吐き気へと重なるよう仕向ける。

 3.については、1.2.と同じ文脈で、政府と結託した政商が賄賂と談合、謀略により卑劣な身分社会を築き、国民の国富を「食べてしまった」点を継続的に弾劾し、諸悪の根源は、資本主義であり、清潔で誠実な家父長的な領導者による社会主義政策のみが唯一、社会のパラダイスを実現するとの意識改革を拡散する。

 金正恩連邦大統領の誕生と独裁クーデター

 徹底したプロパガンダが広く浸透した段階で、南北人民の総意として連邦制を樹立、続いて連邦大統領選挙を実施、首尾良く金正恩は大統領に就任する。そして、もはや二つの独立国には回帰できない時流を見極めた上で、突如として独裁クーデターを強行、半島全土を掌握、現在の北朝鮮と同じ強権恐怖政治を断交、絶対権力を確保、金日成以来の民族統一の宿願を成就する。

 半島で人権抑圧政権が誕生したといえども、内政に干渉しないことを約した和平協定によりアメリカは動けず、反米意識が燃え広がった韓国に辟易したアメリカ市民も同情を寄せず、やっかいな朝鮮に中国、ロシアも距離をとることより、外圧は限られる。

 唯一、在日韓国人が多い日本のみが独裁政権糾弾の先鋭となり得るが、知将には、いくつか日本懐柔のカードがある。例えば、ここでも慰安婦を活用できる。 統一朝鮮は、日本との善隣友好を標榜し、慰安婦問題については、歴史問題再調査の結果、日本の主張が全面的に正しいことを認め、慰安婦偏向政策は旧韓国政権の陰謀であり、その陰謀を無邪気に信じた旧韓国市民の所業であったとし、金正恩首領の厳命として半島内ならびに世界の慰安婦像を即座に撤去、以後、この問題は完全に解決された旨宣言すれば、一夜にして日本の世論も変る。(本当に)拉致被害者の調査と帰国に真摯に対応するのでもいい。その気になれば、統一朝鮮の独裁者は、日韓、日朝に横たわる政治的懸案事項を全て瞬時に解決できる。

 日本の国内世論が、害悪の全てが滅亡した旧韓国政権に起因していたのだとの考え方に傾き、例え核保有国であったとしても、鬱積した日韓日朝関係の憎悪を新生朝鮮がすっきり洗い流し、友好を訴えるのである限り、日本政府としても再び関係をこじれさせたくは無いと思うであろうし、そのためには隣国の内政問題は二の次と考えるに違いない。


 戦後政策を転換し、理知的政略を本意に朋友日本を踏み台として周辺諸国の関係改善に邁進、経済再興から高度成長を誘引、核大国から経済大国へと統一朝鮮を昇華できれば、知将金正恩の名は、希代の大元帥として半島史に刻まれることになるだろう。 悪魔のシナリオはこうして完結する。


(おわり)

【国際部半島情勢デスク】2017.10.2配信