時事旬報社

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ベーシックインカム:日本が天国となる日(4)

日本人が世界の手本に

 

 隣の半島情勢デスクでは、状況の激変に今後が読めず大混乱です。北朝鮮問題の成り行きは社会部としても他人事ではないのですが、コチラではもう少し日本社会の中長期的展望を追ってみましょう。ベーシックインカム実現の話です。

 

 スイスが国民投票ベーシックインカムを否決したことはすでに触れました。全員が無条件で自動的に生活費を支給されるようになると、勤労意欲は減退し、スイスという国家の海外競争力が奪われ、国際社会での地位が転落することを懸念したのでしょう。しかしもしこの時、世界に先駆けてベーシックインカムを始めたのだとすれば、スイスが全世界から羨望の的となったことは間違いありません。


 一人毎月2500スイスフラン(約28万円)を受給する。夫婦であれば一家としてその倍の生活費を受け取るわけですから、「万一失業すれば、、、」という切迫感、恐怖感から永遠に解放されます。これほどの安堵はありません。誰もが「スイス国民になりたい」と羨むに違いありません。

 

 この「羨み」ですが、現在の収入や資産の状況によって人それぞれソノ度合いが異なることは当然です。高給取りの多いスイス(独身者の平均月収6250フラン(約72万円))では、一律28万円支給はそれほどの魅力とは写らなかったかもしれません。しかしカスカスの収入でいつも腹ぺこな人たちにとっては28万円は天国以外の何物でもありません。日本のベーシックインカムを月額12万円と想定してココでは検討していますが、月給100万円か10万円かでは、日本人の間でもベーシックインカムの見方が違ってくることでしょう。


 また競争社会の今日、努力して高給取りを勝ち取った人と(努力した人から見れば)怠惰が原因で低賃金に置かれる人たちの間でもベーシックインカムの受け止め方が異なるはずです。努力して成功すれば「報われる」のは当然で、そうでなければ敗者としての「報い」を受けるのは社会の摂理だ、との主張もあり得ます。
 勝者にとっては、怠け者が何もせずに月額12万円を国から受け取ることなど「以ての外」となるかもしれません。実際、アメリカなどでは国政でもこのような議論が堂々と交わされます。
 民主党オバマ大統領は、日本の国民皆保険に相当する社会保険制度の実現を目指しましたが、医療費の自己責任を主張する反論が、共和党トランプ政権誕生の一因ともなりました。

 

 

 国民皆保険や年金制度、ベーシックインカムは、国による社会扶助制度です。日本で国民皆保険が本格的に始まったのは昭和33年、年金制度は36年からです。おそらく日本ではこの制度を否定する人はほとんどいないでしょう。日本の国民であるとの資格だけで、低額(定額)で医療を受けられる、高齢者となれば年金を受給する。あるいは失業し収入がなくなれば、失業保険を国からもらう、は社会としては自然のことである、というのが一般的な日本的感性と思えます。弱者救済は税金の無駄遣いだとの主張は聞いたことがありません。なぜソノ人が弱者となったのかは、二の次の問題です。


 様々な不備や課題を指摘されている日本の社会福祉制度ですが、世界を見渡せばソノ日本程度でも実現できない国は多く、問題だらけの年金制度にしても海外からは、すでに羨望されるほど整備されているのです。

 

 この意味では、日本はベーシックインカム実現に特別な地位にあると思います。財源の問題その他実現するための課題は山積みですが、少なくとも「日本人である」という資格だけで、誰もが均等に「報われる」という発想自体に抗う向きは多くないはずです。

 

 

 隣の半島情勢デスクでは、「このままでは日本はかやの外になる」、「韓国と北朝鮮が連携し、これに中国が加わり一体となって反日勢力に固まるとやっかいだ」、「もはやアメリカも自国の手柄を優先し、日本を置き去りにするかもしれない」などと侃々諤々です。
 そうなのかもしれません。しかしソレとは無関係に、もし日本でベーシックインカムをいち早く実現し上手に運営するのであれば、いかに周辺国が日本を政治や外交、歴史で非難しようとも、「日本人になりたい」に火をつけること受け合いです。
 ソレは日本の自慢です。「日本が世界の手本となる」と言ってもいいほどです。解決の緒が見いだせない近隣諸国との対外問題ですが、ヒョッとすると、国内問題が事態を動かす一歩となるかもしれません。

 

(社会部デスク)