時事旬報社

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老齢介護と向き合う(3)

施設介護の完全機械化

 おそらく「家族に見守られ家庭で最期を迎える」が理想的な人生でしょう。しかし介護者に過酷な労苦を強いる老齢介護が長引くとなれば、第三者の手助けが必要です。次策として訪問ヘルパーも考えられますが、24時間365日、ヘルパーに任せる訳にもゆきません。


 本格的な高齢社会の到来を控え、施設において効率的、集中的に介護することは避けられないと思います。前回は肉体的にも精神的にも「する方、される方」ともに負荷の大きい大問題「排泄介護」をいかに機械介護で支援できるかを追いましたが、今回は施設における介護をイノベーションでどこまで省人化できるかを考えてみたいと思います。



 施設介護においても排泄介護は重要な任務ですから、前回の装置支援は前提となるでしょう。日常、入所者はトイレ機能付自走車椅子で生活しますので、基本的に各々任意の場所でボタン一つで「用を足す」ことになります。介護の度合いが重く、意思の表示や肢体が不自由な入所者については、センサーによる排泄の検知によって、スタッフのボタン操作もしくはリモート操作、あるいは装置の自立機能によって「済ます」ことになります。


 自走車椅子はIotで集中管理され、充電やタンクの貯水や使い捨て下着の補充なども自動化されるべきです。可能であれば電気、水、消耗品は一日分が搭載され、入所者の就寝中に補充・交換されるのがベストですし、更には排尿の数や体温、心拍数など健康管理情報もIotで集中的に管理されるべきです。

 


入所者の移動

 

 記者が義母の介護でスタッフの大変さを感じたのが、入所者の集合分散など各々の「移動」です。施設は二階建てで、入所者は30人程。日常、下の階と上の階で過ごすのですが、食事時間は全員を一階の食堂に集めねばなりません。エレベータは一基で、無理しても車椅子4台を乗せるのが限界ですので、食事時間はいつもドタバタで、全員を食堂に移動させて、それぞれ内容の異なる食事トレーを各人のテーブルに運び、食事が終われば、再び二階の入所者を4人づつエレベータでもどさねばなりません。


 自動運転が可能な車椅子であれば、各員の集合分散に人手を不要とすることができます。二階三階等階上をエレベータではなくスロープで行き来できる建築構造とするべきと考えられますが、イメージとしては自動車やトラックの自動運転と同じです。特定の時間、任意の場所に自動運転で車椅子を移動させることは現在の技術でも実現できるように思えます。


 電動車椅子は通常、入居者本人の意思で自由に行きたいところに行くのが前提ですが、集合する必要がある場合は、管理センターで集中制御することが求められます。技術的には問題ないでしょうが、入居者の意思とは無関係に移動を強制させることとなるのですから、本人には愉快なことではないかもしれません。車椅子にマイクとスピーカーを設置し、「お昼の時間となりましたので、車を食堂に移動します」などと毎回丁寧なアナウンスをする程度はしかるべきです。


 食事は食堂のテーブルを前提とする必要はありません。各々に定められた食事はトレーを膝上に置き固定、そのまま車椅子で済ますことができれば、基本的に食事の場所に制約を設ける必要もありません。勿論、自力ではスプーンを口元に運ぶこともできない重度の入居者は人的介護ができる場所への移動が求められます。そして食事が終われば、トレーの回収場所に再び自動運転します。
 全入所者を一斉に自動移動できるのであれば、火災などの非常事態にも役立つはずです。

 

 

 自動運転自走車椅子ですが、利用者の状況を確認する監視カメラもしくは何かしらのセンサーを設置することが必要となると考えられます。プライバシーの問題があるのですが、入居者が車椅子に正しく着座していることを確認しなければ、むやみに自動走行させられません。移動中に突然起立し、転倒すれば一大事です。食事が終わったかを確認するにも入所者の手元の映像が必要です。マイク、スピーカーでいつでも入所者とコミュニケーションできる装置に加え、入居者の「今」を管理センターが目視する機能も装備されねばなりません。

 

 集中管理による完全自動化であっても、当人の状況は、現在の技術をもってしても最終的にはヒトが目で確認するしかなく、プライバシーを一定度制限してでも、自動化の安全性や施設の適切な業務を担保することが求められます。つまり「誰か」は、集中的に入居者各々の状況を見守っていなければならないのです。

 

 Iot自走車椅子各々GPS等で位置情報を管理することは言うまでもありません。場所が集中管理されていることを前提とすれば、入所者は自由に屋外を散歩できます。常に車椅子で行動しなければなりませんが、位置情報が管理され、自動運転で帰宅可能な場所であれば、河原に釣りに出かけるのも自由です。無論、門限となれば自動的に強制帰宅となる制度はいたしかたありません。

 

就寝

 

 日常を自動車椅子で生活するのですが、就寝するときはベッドに横たえねばなりません。就寝準備(車椅子からベッドへの移動)も介護スタッフの労苦です。ストレッチャー式の車椅子として、着座姿勢から簡易ベッド的な寝台を兼ねることができたとしても、狭い簡易ベッドで就寝するのは苦痛です。床に就く場合は、ダブルベッド位の広さと安楽さが必要です。

 

 ベッドへの移動を自動化するには、ストレッチャーがそのままベッドに収まるドッキングベイ方式が有効であると考えられます。凹型のダブルベッドに車椅子毎収め、ストレッチャーを立てることにより、そのままダブルベッドとなるのであれば、車椅子とベッドの移動が不要となります。


 深夜の排泄介助が必要であれば、再び車椅子の着座姿勢に戻すことになりますが、就寝介護の負荷は大幅に軽減されるはずです。

 

 

 就寝介護でもう一つ考慮しなければならないのが「床ずれ」です。重度の入所者となれば、自ら寝返りをうつこともできず、同じ姿勢で長時間、横たわり続けることにより特定箇所が床ずれとなってしまいます。床ずれを回避するために施設スタッフは一晩中、定期的に入所者の就寝姿勢を変えていたのですが、これがまた重労働です。
 ドッキングベイ・ダブルベッドには自動的に就寝姿勢を変える床ずれ防止機能を装備しなければなりません。

 

 


 これらの機械介護を実現しようとなると技術開発もさることながら、施設の初期投資も相当なものとなるでしょう。しかしソレで、一人で50人を担当できるのであれば、投資の価値はあります。法令の定めにより現在は、入所者一人に対する介護職員の人数規定があるはずです。しかし今後、日本最大の年齢層である団塊の世代が介護時代へと突入すると、前回触れたように日本経済を支える若手の大半を介護へ投入せざるを得なくなります。しかし若手の生産力は介護に奪われるべきではありません。

 

 政府は外国人労働者に活路を求めているようですが、自国の介護を外国に頼るというのもおかしな話です。そうであれば、AIやIotなどマンパワーに代わるイノベーションを動員し、介護を乗り切る他に道はないと考えられます。

 

 普通の人であれば、「自分のことは自分でやりたい」と考えるのは当然です。例え高齢となり「助け」が必要となったとしても、第三者に助けてもらうよりは、機械を使い「自分でやる」ことを優先するに違いありません。ヒトによる介護は暖かく、機械の介護は冷たい、とステレオタイプで決めつけるべきではありません。記者には、AIやIotなど社会を一変させる技術革新が、最優先で克服するべき緊急課題が「介護」であると思えてならないのです。

 

(社会部デスク)