時事旬報社

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LGBTの生産性:性的少数者に対する当社の見解

生産性がない

 与党女性議員による「LGBTは生産性がない」発言により所謂「性的少数者」に対する議論が噴出している。「生産性がない」との主張には「子供を作らない伴侶は国益に反する」との含意があるのだろう。主張を掲載した記事(「新潮45」2018年8月号)の趣旨は、「人口増加に無益なLGBTには無駄に税金を使うな」であることから、この議論の「生産性」とは日本という領域限定で生み増やし、労働力人口ならびに納税者人口拡大によって国家に寄与する伴侶を「生産性がある」=「国益がある」と位置づけ、その反射的立論として「LGBTは生産性がない」と談じたのである。

 

 「生産性がない」などと意図的に鋭利な表現を使ったため問題が拗れる。言うまでも無く、独身者であろうが、LGBTだろうが国民経済の生産性に貢献している。「生産性のない人間」とは「生きる価値のない人間」とすら拡大解釈する余地があることから、この表現は人権問題にまで飛火する全くもって愚昧浅薄な一言である。
 では、「少子化が進み、人口減少が収まらない」という国難の一点のみに限定すれば、「生産性はない」に道理があるといえるだろうか。この点のみに集中し、その是非を合理的に追い、「性的少数者に対する当社の見解」を本稿において明確としたい。

 

 結論から言えば、「男に乳首が存在する」事実が、この問題の最終的な解答となるということである。

 

有性生殖の合理性

 そもそも何故男性と女性に分かれるのであろうか。有性生殖は人間だけのものではない。多くの生物が雄と雌に分かれるが、性の分化は進化の途上で出現した。分化する前の種は無性生殖、つまり親と同一のクローンを作って子孫を増やした。進化によって性が分かれたということは、そのほうが種の存続・継承に都合がよかったからと考えられる。

 

 雌雄に分かれると両親の遺伝子を配合した子孫が誕生する。「背が高い低い」、「毛深い、毛が薄い」、「暑さ寒さに強い弱い」など子孫に継承される個体としての形質に幅が広がることより、種を自然環境の変化に柔軟に対応させることができる、つまり地球史に繰り返された環境変化による種の断絶危機に備えるため、雌雄遺伝子配合子孫をもって適者生存の可能性を高めた。種の継承に「進化」が合理的に起ることを前提とすると「性分化のメカニズム」はこのように整理できる。

 

 『はるかなる記憶』(カール・セーガン、アン・ドルーヤン共著)によると生命に運命づけられる寿命という「生の有期限」は、有性生殖体だけの特質である。アメーバやウィルスなど無性生殖体は、外的要因(紫外線を浴びた、栄養源がなくなった等)がなければ寿命で死ぬことがない(永遠に生きる)。
 有性生殖体のみが「寿命で死ぬ」ということは、雌雄は結合によって子孫を残せば任務を完了し、後は死する運命とすることを進化が企画したといえ、このことからしても、性の分化は種の存続・継承に関係していると結論できる。

 

 この結論だけをもってすると、LGBTは「非生産的」との道理を肯定しそうにも思える。しかしそうではない。進化のメカニズムは、人類の狭い思考力では想像できぬ広さを持つと考えるべきである。その傍証が「男の乳首」である。

 

男の乳首

 男の乳首ほど無用なものはない。男の一生で、一度でも「乳首が役に立った」などと経験するものはいまい。使わないのであれば、退化してなくなってもいい。今後、進化が進み男の乳首は消滅するであろうか。おそらく退化することはない。乳首はこの先も男の胸に残るはずである。
 生物を幅広く見回せば、男(雄)の乳首が役だったとの事例が散見される。例えば昨年7月の以下のニュースである。

 

「えー!2代続けて雄ヤギから〝母乳〟 獣医師が確認、兵庫・南あわじ市

https://www.sankei.com/west/news/170517/wst1705170029-n1.html

 

 記事は、母親ヤギの乳が途切れ、慢性的な乳不足から、始終乳欲しさをねだる子ヤギを不憫に思ったか、父親ヤギが自らの乳首からミルクを出したことを伝える。非常事態となれば男の乳首も役立つのだ。


 「腹を空かせた子ヤギのため」という情緒的な事態ばかりではない。将来、奇病が発生し、女性だけが死滅するなどといった非常事態が起らないとは限らない。男のみ生き残った人類は呆然と立ちすくむかもしれない。人類の英知ではどうしようもなくなる。しかし失意がどうであれ、遺伝子の奧底では「男だけで何とかしよう」と進化(突然変異)を起動させるであろう。男の乳首はその時、必要となる。
 女性が短期間に死滅してしまえば進化は間に合わないだろうが、50年100年と時間をかけて少なくなるというのであれば、進化は何とか非常事態に対応しようとするはずだ。

 

 この問題は絵空事ではない。近年の調査によれば男性の精子の濃度が世界的に低下していると報告され、このままでは男女による子孫継承が難しくなるとの予測がある。一方、男性特有のY染色体は脆弱であり、将来「男は絶滅する」などの説もある。いずれかの性が消滅する事態は「起こりうる」のである。

 

変態とヘンタイ

 「変態(ヘンタイ)」という用語には生物学的な意味と俗語としての用法がある。環境変化により男の乳首からミルクが出てくれば生物学的な「変態」といえるが、父親が乳首を赤子に吸わせるシーンは、漫談としては「ヘンタイ」、つまり性的異常行為と映る。

 子ヤギを不憫に思った父親ヤギの乳首からミルクが出たという事象は、「変態」であり「ヘンタイ」でもある。しかし種の起源と進化との視座からすれば、その行為は、遺伝子が持つ正当かつ合理的な現象と言える。この現象を遺伝子の本質的な「生産的」機能と言っても構わない。

 

 LGBTは、少数派であるが故に多数派の狭い了見から不埒と見做されがちであるが、その実体は男の乳首をせせら嗤うに等しい。男の乳首は男全員に共通する形質であるから差別にはならないと言うだけである。男の乳首が100人に一人しか発現しないのであれば、社会はソレを不埒とするであろうし、中には非生産的と酷評する向きもあろう。

 

 歴史を紐解けば随処に同性愛の記録が残る。おそらく人類の起源と共に同性愛の歴史も始まったのだろう。進化は種の存続・継承を有利とするため性を分化させたのであるが、並行して一方の性が消滅するという非常事態に備える安全装置を遺伝子に組み込んだとしても不思議ではない。実際、今でも男の胸には乳首が残っているのである。

 

 同性愛者の割合が、時代を通して一定比率であるのか、変化するのであるのかは分らない。しかし例えば仮に、過去より現在の方が比率が高く、しかもレズビアンの方が、ホモセクシュアルよりも相対的に拡大する傾向にあるなどの状況があれば、社会がLGBTを嗤っている間に、遺伝子は精子の劣化とY染色体の危機を早々に察知し、来るべき非常事態に備え、進化の動力を動かし始めたとみることが出来る。

 

 嗤っているどころではない。人類最後の希望が、LGBTとなる日が来ないとも限らないからだ。

 

【社説】