時事旬報社

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国民全員に新型コロナウィルス抗体検査の実施を求める(保留):付記

 ワクチンも特効薬もない現状で、新型コロナウィルス拡大を回避する有効策は「感染しない」であり、そのためには「感染者(感染場所)には近づかない」が鉄則となる。

 政府が発令した緊急事態宣言も「外部との接触を断ち、家に籠れ」を骨子とする。しかしその程度と期間には限界があり、結局のところ感染者と非感染者そして耐性者(免疫者)を区別できないかぎり、ウィルス隔離の決め手とはならない。

 

 前号で触れたように(1)億単位の国民全員を対象とし、(2)医療機関の助けを必要とせずに(自分自身で行える)検査方法としては、抗体検査(抗体検査キット)に頼る他ない。

 しかし、このウィルスに関しては、抗体検査についても一筋縄ではゆかない課題があるようである。

 

 抗体検査の大きな可能性については、各国がすでに注目している。米食品医薬品局(FDA)は、一定の基準を満たせば事前承認なしに抗体検査の開発を行えるようにし、すでに70社以上がエントリー、トランプ大統領も「4月末までには2000万の新たな抗体検査キットが供給できる」と表明した(2020.4.17)。

 イギリスも「免疫パスポート構想」を発表、社会活動を制限なく行なう資格保有者としての「免疫証明書」の発行を検討している。

 WHOも抗体検査を促進するため、各国連携の国際研究「ソリダリディⅡ」を計画、日本でも抗体検査調査費用として今年度補正予算案に約2億円を盛り込んだ。

 

 論理的に考えれば、抗体検査は唯一の現実策といえるのであるが、問題はその信憑性と有効性である。

 すでに各国のベンチャー企業等から抗体簡易検査キットが販売され、中国政府が認可した抗体検査キットだけでも8種類が存在する。しかしその信憑性については、疑問が残る。

 

 オックスフォード大学は、イギリス政府が発注した1750万本の検査キットを調査したところ、精度については「当局と合意した基準に合わない」と結論した。FDAも70社の検査キットの精度はバラバラであるとして、使用を一部の医療機関に限定している。

 国立感染症研究所(日本)は、市販の抗体検査キットを使って感染者の検査を行なった(37症例87検体)ところ、発症1週間後の患者であっても陽性結果は2割(本来であれば、10割でなければならない)との結果に終わった(2週間後であれば、大方が陽性結果となった)。

 

 PCR検査にも精度の問題はある。精度は、感染者を正しく陽性と判定する「感度」と非感染者を正しく陰性と判定する「特異度」よって計測されるが、PCR検査の場合、一般的に感度は70%、特異度は90%程度とされる。

 

 ところが抗体検査キットの場合、未だ精度の定説がみられない。いずこかが開発した抗体キットが正確かどうかは、実際の感染者で判定すれば、簡単に確かめられる。感染者100人に試し、陽性100%であれば完璧なキットである。70%であっても実用品といえるだろう。にもかかわらず、抗体検査の精度がはっきりしないということは、検査法としては信頼性を未だ定められない手探り状態にある、とのことであろうか。

 

 にもかかわらず、感染有無の大量判定との意味で、医療従事者に負荷をかけない簡便性・即時性との意味で、自由行動が許される耐性者を判定するとの意味で、抗体検査の価値は捨てがたい。一刻も早い実用化が望まれる。

 

 すでに様々な企業・機関から試作品が発表されている。国民全員にガーゼマスクを配布する466億円があるのであれば、キットの実用化に投資するべきではないか。国民全員に10万円を届ける13兆円の予算を編成するのであれば、1000億円でも、1兆円でも、キット完成にカネを使うべきではないか。

 

 武漢集団感染で、中国政府がわずか10日間で更地から1000床の巨大病院を建設、稼働させたのは2月3日、ほんの三ヶ月前のことである。2月3日、国内の感染者は20人足らずであり、「さずが一党独裁の国」と対岸を嘲笑できたのであるが、その嘲笑が羨望とならねばよいが。

 

(社会部デスク)