時事旬報社

時事問題を合理的な角度から追って行きます

金正恩 命を賭けた大勝負(2):第2次朝鮮戦争の勝算

 もし金正恩が生死を賭けて、緻密に計算された軍事行動を決行するとなると、いかなる作戦が考えられるのであろうか。勿論、実行するからには勝算がある作戦を立案しなければならない。「北朝鮮の崩壊を招く、自殺行為はやらない」という常識から離れ、感情論や精神論も捨て、戦争とは「他の手段をもってする政治の延長に他ならない」というクラウゼビッツテーゼを本意に、理性的に合理的な軍事作戦を追求するといかなる立案がありえるのか。

 まず作戦立案の前提要件として以下を想定する。

戦争の目的

   ①国体護持
   ②国際社会における地位の向上
   ③半島統一

 

 ①から③の順に前提要件の優先度が高い。作戦は戦争の展開により③もしくは②の達成を放棄し終結する可能性を計算するが、「国体護持」を譲歩することはない。

 「国体護持」とは、いうまでもなく金日成を始祖とするキム一族の国家支配体制維持強化を意味し、事の良し悪しはともかく北朝鮮という国家存在の主体となっている。血統を繋ぐことを意味するが、現実問題としては現金正恩支配体制の存続であることは言うまでもない。金正恩は支配体制の「維持強化に必要」もしくは「維持困難となる蓋然性が高い」と確信したときに戦争を決行する。
 「国際社会における地位の向上」は、国連北朝鮮制裁政策を解除する、国際社会が核大国として北朝鮮を認知する、アメリカとの対等な平和条約を締結するなどを意味し、対中国、対ロシアとの地位向上なども含む。
 「半島統一」は、北朝鮮による朝鮮半島統一であり、韓国というアメリカの傀儡国家を解体し、祖国統一の宿願を達成することである。これが朝鮮戦争(1950-1953)勃発の動機であったが、今日の朝鮮有事では、その順位は低下している。半島統一を目的とせず戦争が引き起こされる可能性があることは、直近の朝鮮情勢を読み解く要素である。
 北朝鮮の主敵はアメリカ一国であり、万一本格的な武力衝突に発展したといえども、アメリカが敵視政策を止め敬意をもって核大国北朝鮮の存在を認め、更には韓国駐留部隊を撤退することに合意すれば、戦争が終わる可能性は高い。


 「アメリカの譲歩を引き出すための戦争」、この程度の限定的武力紛争では(第1次)朝鮮戦争のように国連軍派兵は困難であり、中国も即時の全面的軍事介入とはなりにくい。第2次朝鮮戦争と呼ぶのが適切であるかはさておき、現在想定される軍事衝突は「その程度」と考えられる。
 勿論、その程度の戦争であっても、お互い譲歩せず総力戦へとエスカレーションする事態はありうるが、国際社会は一度半島有事となれば、「その程度」で収めようと犬馬の労をとるであろうから、北朝鮮の軍事計画も「その程度」での終結を視野に最大の戦果を得る作戦を立案することが合理的である。
 勿論、「その程度」の「最大の戦果」には、半島統一という宿願達成に繋がる要素を可能な限り織り込む作戦とすることは当然である。

 

アクションプランの構成要素

 

 次に「その程度」の戦争を実行する作戦計画(アクションプラン)立案の構成要素を整理し、今次作戦の基本方針とする。

 

アクションプラン構成要素1:大量破壊兵器の不使用

核兵器や生物化学兵器といった大量破壊兵器の使用は作戦計画から排除する。万一、同種同様の大規模報復を受けると政権はおろか国家存亡に直結するため、今次作戦は、あくまでも「その程度」の最大果実収穫に徹する。従ってアクションプランは、通常兵器による軍事行動を骨子とする。
勿論、北朝鮮による大量破壊兵器による報復行為については、常に謀略としての喧伝を維持する。

アクションプラン構成要素2:作戦期間を数ヶ月に限定する

戦略物資の備蓄や国力の制限から、長期戦には分がなく、戦争は理想的には一ヶ月以内、長引いたとしても半年以内に終結するものとして立案する。早期講和は今次作戦の核心であり、この核心を確保するため事前に周到な出口戦略を準備する。


アクションプラン構成要素3:地上軍部隊の展開を中心とする

米韓軍の本格的反抗が始まると制空権、制海権が奪取されることは避けられず、空戦海戦での消耗は極力回避する。単なる領土からのミサイル応戦や砲撃だけに留まることも避ける。越境せずミサイルや砲撃の応酬合戦で戦線が膠着すると、制空権を奪われ物量にもとる北朝鮮から先に枯渇する。そのため今次作戦は、あくまで陸上部隊の韓国進出を主眼とし、緒戦における陸戦の比較優位を目指す。作戦は電撃奇襲戦とし、制空権、制海権喪失後も緒戦の先制点を守ることだけに専念する。戦争の勝算は、短期決戦を耐え、緒戦スコアをそのまま決勝点に守り切る以外ないと心得る。

アクションプラン構成要素4:戦域を拡大しない

韓国全土に展開、兵站が底をつき自滅した(第1次)朝鮮戦争を教訓とし、今次作戦では、全軍をもって早期にソウル一帯の占領のみを目ざし、不用意な戦域拡大を禁止する。一帯の占領後は速やかに防衛陣地を構築し、敵の反撃に備え、作戦行動は、最大6ヶ月間のソウル死守だけを目的とする。
緒戦目的達成後は、ソウルからの撤兵も示唆し米韓に早急な講和を呼びかける。

アクションプラン構成要素5:中露の協調介入を想定しない

計画立案には中国、ロシアといった友好国の協調武力介入を想定しない。作戦は朝鮮人民軍の単独行動を基本とし、中露他友好国については、「その程度」で終結するために国際社会における外交的圧力勢力として対米韓に最大限の影響力を行使するよう要請し、緒戦目的達成後は、北朝鮮の休戦申し入れを拒絶、戦争を長引かせようとしているのは、むしろ米韓であるとの国際世論扇動役に仕向ける。

アクションプラン構成要素6:あらゆる謀略を尽くす

緒戦勝利と短期決戦終結に寄与するあらゆる権謀術策を総動員し、大量破壊兵器の使用以外は、国際軍事協定違反行為であっても躊躇無く実行する。宣戦布告なしの奇襲や民間人あるいは韓国軍に扮した工作部隊の潜入、更には占領地域における韓国市民や外国人旅行客による人の盾防衛や人質戦略など全てを考慮する。

 

 以上の開戦目的ならびに作戦基本方針を念頭に、北朝鮮勝利へと導く作戦計画を合理的に追求するといかなるアクションプランが見えてくるだろうか。

                                (つづく)

                   【国際部半島情勢デスク】2017.8.29配信