時事旬報社

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金正恩 命を賭けた大勝負(4):第2次朝鮮戦争の勝算

第2次朝鮮戦争のシナリオ(1)

奇襲攻撃への布石


 北朝鮮によるソウル奪取は、奇襲攻撃でなければならない。不意を打たねば勝ち目がない。西側観測筋は、北朝鮮の国家戦略は核とミサイルに持てる資源を集中し、通常兵力と一般兵器の近代化を後回しにしていると見ている。北朝鮮軍の堕落や窮状は国外にも漏れ伝わってきており、実際にソウであるのかもしれない。しかしこの観測は通常兵力による奇襲を敢行するには好都合といえる。
 「食うや食わずの旧式装備軍隊では、よもや大規模軍事行動などおこすまい」、全体にそうした考えが漫然と流れれば、国境の警備も緩む。「虚を突く」環境は整いつつある。

 とはいえ、ソウルを陥落させるためには、百万単位の部隊を投入することになる。軍事無線通信の激増が検知される、国境に集結する兵力が補足されるなど大部隊が隠密に動くことは難しい。したがって奇襲を成功させるためには、謀略により戦争勃発の緊張を不感症にさせておく必要がある。

 そのため、事あるごとに何かしら因縁をつけては、「休戦協定の破棄」と「軍事侵攻」を通告し、実際、「国境に部隊を集結させる」、「軍事通信を激増させる」、「銃後を臨戦体制におく」を繰り返し、「戦争するぞ」は「はったり」だと米韓の緊張感を削いでおかねばならない。


 その間、多数の偽装脱北兵士を送り込み、北朝鮮人民軍の指揮は低く、食料供給も滞り栄養失調状況で戦意を消失し、隊内では急速に厭戦観が蔓延しているとのニセ内部情報を意図的に流出させ、はったり感を補強する。「はったり動員」で韓米軍が辟易したタイミングを期して侵攻は決行されねばならない。すでに休戦協定破棄を宣言しているので、宣戦布告も必要ない。

 

工作員の潜入

 

 開戦前に南鮮に居住する協力者を動員する、新たに工作員を侵入させるして、徹底した諜報活動を展開することは言うまでも無い。彼らの任務は、韓米軍の配置や装備、兵站路の情報収集に始まり、電気ガス水道通信といったライフラインの掌握、大統領府の動向やマスコミ、政府機関など重要施設の監視など南進とその後の占領政策を円滑に進めるための情報を集め、並行して北朝鮮人民の不満は沸点に近づき、政権の内部崩壊も近いとの宣撫工作を進める。
 また、侵攻時には通信や鉄道、生活インフラを破壊、流言飛語流布など社会を混乱させ、韓国軍服を着用した特命工作員により軍事施設の破壊、ニセ作戦命令発令等謀略を駆使して、特に駐留米軍と韓国軍との不信感醸成と衝突に努める。

 

開戦前夜

 

 迅速な部隊展開を行なうため南進トンネルを最大限活用する。トンネルは、戦車、重火器の通行を可能とするよう整備し、ソウル占領後、鹵獲物資の本国輸送網としても活用する。ソウル進出最短となる京畿道坑路は勿論、迂回路として江原道坑路も整備し、少なくとも10路の南進トンネルを稼働させ、開戦後三時間以内にソウル市内への先遣隊(一個師団)突入を可能とする体制を整える。

 

開戦日と開戦当初

 
韓国内潜入工作員

 決行指令とともに蜂起し、本国軍の南進路となる高速道路、橋梁、トンネル、鉄道路などの確保に努めると共に米韓軍の反撃路と想定される交通網を破壊する。
 韓国軍服を着用した特命工作員駐留米軍基地に侵入、装備、軍需物資を破壊するとともに米韓軍司令官の捕縛殺害を行ない、命令系統の攪乱を図るとともに米軍を襲撃、韓国軍にニセ命令を発令して、米軍をして韓国軍の反米クーデターが発生したと錯覚させる。
 別動隊は、大統領府、国会議事堂、主要マスコミ、インターネット拠点を襲撃し、要人の捕縛殺害を行ない行政指揮網を破壊、テレビ、ラジオ、インターネット、新聞などメディア活動を麻痺させ、本国軍の到着を待つ。

航空部隊

 米韓軍の主要基地を攻撃、占領予定外地域の軍事施設であっても、少なくとも一ヶ月程度無力化する打撃を与える。なお在日米軍航空兵力の反撃等を勘案し、制空権は2週間程度で喪失するものとし、主要作戦は全てこの間に完了するものとする。以後、航空兵力については消滅するものと計画する。

海上部隊

 潜水艦戦を基本とし、航空母艦イージス艦など主要艦艇の撃破を試みるが、極力直接対決は回避し、戦力を温存しながら、「戦闘水域に敵潜水艦が展開している」との脅迫観念維持に努め、反撃部隊の海上輸送の消耗、混乱に努める。
 また水上艦艇は、仁川港を封鎖し、小型艦については漢江を北上、ソウル市内に侵入、南下する陸上部隊を援護し、その移動を支援する。

陸上部隊

 陸上部隊は全軍でソウル占領を目指す。南進トンネル先遣隊は橋梁、トンネル、鉄道、高速・主要道路他重要拠点を確保し、本隊の速やかな市内流入を支援、各部隊は事前に定められた作戦目標地占領を行なう。優先するべき占領地は、仁川・金浦空港、大統領府、国会議事堂、マスコミ関連施設、大韓銀行他大手銀行、電気ガス水道の社会インフラ施設、江華島、南山等地形的軍事防衛上の要衝、デパート、物流倉庫、燃料基地等戦略物資の貯蔵施設、外国人宿泊者が利用するホテルなどとする。
 部隊は少なくとも当日の内、漢江北岸のソウル市を完全占領し、漢江沿いに重火器を配置、速やかに防衛陣地を整備し、決戦の死守防衛ラインとする。
 漢江南岸への進出部隊は、駐留米軍平沢基地の奪取他、重要施設・地域を占領し、以後、拠点統治を維持するとともに米韓軍の陸路反撃に備え拠点防衛陣地を整備する。

核ミサイル部隊

 ミサイル隊は、韓国全土の米韓軍拠点に攻撃を開始。自走式ミサイルは、捕捉困難な作戦地域へ移動、基地ミサイルは数日以内に有力な米韓軍の反撃により戦力を喪失することを計算し、持てる戦力の大半を短期間で消費する。
 核部隊は、ソウル占領と同時に隠密に市内複数箇所に核爆弾を移送。命令に従い核自爆する体制を維持する。

工兵部隊

 工兵隊は、開戦と共に高速道路網を整備するとともに分断されている京義線、東海線の敷設を行い、南北の鉄道輸送路を確保、本隊の南進輸送を支援する。必要な輸送網を補修整備しながら、敵の反抗に備え、漢江橋梁や主要トンネル等を爆装し、命令に従いいつでも破壊できる体制を維持する。
 建機や重機、更には建材資材等を現地で調達し、特に漢江北岸の防衛ライン沿いにトーチカ等陣地を速やかに整備するとともに、地下鉄や下水トンネルなどソウルの坑道網を活用し、地下物流網を整備する。

特殊任務

以下の特殊任務部隊を開戦とともに速やかに展開する。

 人質・捕虜の管理

飛行場やホテルで外国人を捕縛、VIP以外はソウル市内の仮設施設に分散収容。特に欧米人、日本人については、本隊の重要施設近隣に移動させ人の盾とする。
米軍捕虜とVIPについては、早期に北朝鮮本国に移送、分散収容して講和のカードとする。

 現地調達部隊

現地調達の専門部隊を派遣、デパート、小売店等から食料、生活品を鹵獲、ソウル駐留部隊の兵站とする。食料の備蓄倉庫など大量鹵獲品については北送する。占領地の全ガソリンスタンドならびに市内の自動車等から燃料を接収、備蓄する。ただし備蓄はドラム缶などに小分けし、分散配置を基本とする。燃料・戦略物資を一箇所に集中備蓄してはならない。

 貴金属・文化財北送

韓国銀行、都市銀行他金融機関、博物館、美術館、宝石店等を占拠し、保管されている貴金属、骨董品、文化財等を接収、速やかに北送する。現金についてはソウルに留め置き、占領政策の進展によりソウル市民に配布するなど宣撫工作に活用する。

 メディア管理

放送局、出版社を占拠し、インターネットと公衆電話網は遮断する。早期に北朝鮮国営放送を韓国に進出、占領地域のメディアを支配する。

 

 

 開戦当初とは、開戦日より概ね2~3日を意味しており、南進部隊はこの間に上記、作戦目的を遂行するものとする。米韓軍の反撃は航空兵力に関しては翌日から、海上部隊については一週間後、本格的な陸上部隊の反撃は一ヶ月後と想定する。
 首尾良く計画通りに緒戦でソウルを陥落できれば、以後1~2ヶ月間が金正恩一世一度の大勝負となる。

 

                                  (つづく)

                    【国際部半島情勢デスク】2017.9.14配信