時事旬報社

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鼻血作戦:平昌オリンピックを巡る米朝中韓の駆け引き

北朝鮮にたいする米軍軍事行動はあるか

 

 平昌オリンピック開催が間近となった。新年早々、北朝鮮は異例にも韓国の冬期オリンピック開催に声援を送り、これに呼応した韓国提案の南北共同開催を承諾、IOCも同調・歓迎し、半島情勢に束の間の雪解けが訪れたように見える。


 しかし、観測点を変えれば半島はこれまでにはない緊張状態といえる。それはアメリカが「鼻血作戦(Bloody Nose Strike)」と呼ばれる軍事行動を検討していることが判明したからだ。鼻血作戦という用語自体は外信が命名したようであるが、「先に一発、鼻っ面にお見舞いすれば、顔面血だらけとなった相手は戦意を消失し、以後、コッチに服従する」ほどの含みがある。


 好機を窺い軍事施設等を限定攻撃(空爆巡航ミサイル)すれば、アメリカの本気度にたじろぐ北朝鮮は核放棄の交渉テーブルに出てくる、というのがトランプ政権の読みであるようだ。「全面戦争となれば国が崩壊する北朝鮮は、鼻血を流すだけで反撃しない」に期待する計画である。

 

 いつこの作戦が立案されたのかは分らないが、状況からすると相当以前から周到に準備されてきたように思える。トランプ大統領は就任早々米中首脳会談を開催、北朝鮮問題を相当踏み込んで協議したフシがある。会談後、環球時報が「外科手術」という表現で、アメリカによる北朝鮮限定攻撃容認の論説を公表した(2017.4)のも、協議結果の吐露と思える。つまり、鼻血作戦「的」な着想はすでにこの時から中国との調整事項として議題となり、一定の方向性につき合意していたと考えるのが自然だ。

 

 会談後、アメリカは中国の影響力行使で問題を解決する猶予期間を設けたが、ソレを察知してか、北朝鮮は常軌を逸した頻度での弾道ミサイル発射を繰り返し、核実験を強行した。ところが、昨年11月29日、2ヶ月ぶりとなる弾道ミサイル(火星15)の発射後、エスカレーションは鳴りを潜めた。タイミングは、事態が動かない中国の影響力行使にアメリカがしびれを切らす時期と重なる。そして新年となり「鼻血作戦」が漏れ出てくる。


 この経緯よりすれば、次の挑発行動で北朝鮮は鼻血を流す可能性がある。その切迫感を十分理解するが故に、北朝鮮はオリンピック融和で米韓関係を揺さぶっていると考えれば辻褄が合う。

 

 鼻血で問題解決へと流れれば理想的であるが、当然、そうでない場合の「次の一手」も準備しておかねば、「一発」はできない。次の一手で米中が合意し、協調しているとは考えにくいので、一手はそれぞれの思惑で独自の方策を企てているのだろうが、米中の利益が一致する手であれば、例えば、米軍による外科手術後、同盟国支援目的で人民解放軍北朝鮮に進出、強制的に中国寄りの政権にすげ替える程度の密約はありえる。

 

 鼻血のリアリティは、北朝鮮に中国造反の疑念を強化させる。挑発行動の矛を収めるため火星15号の発射実験をもって、ICBMを完成したと宣言し、核の防壁が完了したことを周知した。つまり、「完成したのだから、もはや実験は必要ない」として事態を取り繕うのだが、そこにはアメリカの一発に加え、中国介入への危機感が漂う。

 

 しかし実験が不十分であるとを北朝鮮も理解しているはずだ。ICBM保有国として国際的な認知をうけるためには、技術的実証と心理的刻印の二つが必要である。そのためには最低限、水平長距離射程による弾道ミサイル発射実験が必要となる。
 いかに暴君といえども、許可も得ずに第三国で核実験を行なえば、一夜にして全世界を敵にし、鼻血どころでは済まなくなるから、長距離水平射程実験は模擬弾頭実験となるはずだ。


 勿論、実験はアメリカ本土や沿岸への着弾は回避するだろうから、水平長距離射程は南太平洋北部(南米沖)辺りを実験場とする可能性が高い。もしペルー遠方沖まで飛距離を伸ばすICBMに成功すれば、例え模擬弾頭といえども全世界の脳裏に「核強国」を刻印できる。少なくも「あと一回、長距離水平射程実験を敢行したい」は、北朝鮮としては事を締めくくるための悲願であるといえる。

 

 結局のところ、安倍首相は平昌オリンピックに出席することになったのであるから、五輪期間中にアメリカが動くことはないのであろう。しかしその後は、鼻血が先か、南太平洋が先か、という状況となる。
 その時どうするか、日本としても態度と覚悟が求められる。

 

【国際部半島情勢デスク】2018.2.7配信