時事旬報社

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老齢介護と向き合う(2)

人間の尊厳

 記者が経験した介護から考えると排泄介助ほど負荷が大きいものはないと思います。肉体的に大変であるというだけではなく、精神的にも辛い役目です。留意したいのは身内や介護施設の職員などの介助者だけではなく、介護してもらう本人にとっても排泄にヒトの助けを借りることが、いかに苦痛であるか、との点です。


 「自分のことは自分でやる」は、人間の根源的な情操といえ、それを奪われることはヒトとしての尊厳にも反します。とはいえ、高齢となり肢体の自由が制約されるとなれば、介助を求めるほかありません。それでも、「自分のことは自分でやる」に最期まで固執するのは「トイレを済ます」ことだといえます。

 

 真心が本旨の介護として美辞麗句を飾ることはできるでしょうが、こと排泄介助に関しては、「する方、してもらう方」いずれも出来れば避けたいに違いありません。とても不謹慎で、非難されるべきことですが、義母の介護をしていた時、一日そのまま便座に座らせておきたいとの衝動に駆られました。ウォシュレットが普及したおかげで、介助も随分と楽になりましたが、シャワートイレ内蔵のソファーのようなものがあり、居室で用を済ますことができれば、などと夢想したものです。


 もし機械介護技術が進歩し、ボタン一つで、誰の助けも借りることなく完全に「トイレを済ます」ことができれば、本人と介護者の負荷は、それだけで半減すると記者には思えてなりません。排泄という労苦と羞恥心を機械介護は、最優先に解決するべきです。

 

トイレ一体形車椅子

 

 そこで完全自動化の排泄介護装置ですが、(1)日常生活を維持しながら、ヒトに悟られず用を足すことができる。外形的に悟られないだけではなく、消臭装置なども必要です。(2)ボタン一つで完全に自動化される。(3)下着交換など衛生面が維持される、などが条件と考えられます。寝たきりとなる重度の要介護者で、尿意便意を自ら申告できないような場合は、排泄を検知する装置も必要です。

 

 (1)に関しては、健常者のようにトイレで用を済ますことができないことを前提に居室で過ごす間でも、その場で「済ます」装置が求められます。本人が羞恥心を抱かぬように、周囲が気を遣う必要もなく自然に隠密に「終わる」装置であるべきです。そのためには、室内で過ごす車椅子にシャワートイレを内蔵するような装置が想定されます。理想をいえば、家族一緒にテレビを見ながら、誰の手間も借りずに「トイレが終わる」ことです。

 

 温水を供給せねばなりませんから、バッテリーと水タンクを搭載する必要があります。水タンクは上水と下水タンクが必要で、水洗トイレで流す水量は6リッターほどですから、一日平均6~7回のトイレ利用分の水タンクとなると42リッター、卓上型の小型冷蔵庫ほどの大きさとなり、これが二つ必要となります。場合によっては小型化のため、半日に一度、給水と下水排出などが必要となるかも知れませんが、室内を無理なく移動できるサイズに車椅子の背部や股下のスペースを上手く工夫する必要があります。

 

 上水の補給や下水の排出なども手間のかからない、清潔さを維持する装置としなければなりません。痴呆がすすんだ場合など、無意識に不必要な温水を出し続けるなどもあるでしょうから、補給排出が必要な場合は第三者にも容易に分る仕組みが求められます。

 

 寝たきりの状況などでは、通常はベッドとして使い、ストレッチャー型車椅子のように必要に応じて座面を起こし、機械排泄装置を動かすなどの応用も必要ですし、外見上、ソレを悟られないよう膝掛けブランケットで車椅子下部を覆うなどの工夫も一考しなければなりません。

 

下着をどうするか

 

 車椅子・シャワートイレ一体型は新しいアイデアではありませんが、実現するためには幾つか課題があります。必要な時に座面が陥没し、自動的にO型便座に着座しているような姿勢となる構造が求められますが、それにもまして大問題なのが「下着をどうするか」です。画期的な下着もしくは下着的なモノの開発が必要となります。

 

 意志の伝達が困難な被介護者の場合、準備する前に「用を足してしまう」ことはあり得ますから、現在広く使われている使い捨ての介護パンツのようなモノが適切であると考えられます。介護パンツは前開き、前止めが一般的ですが、車椅子・トイレ一体形の場合は、後開き、後止めとする方が機能的であるかもしれません。

 

 パンツの着脱を自動化する必要もあります。「脱ぐ」と「はく」を機械で行なわねばなりません。そのためには、何かしらのセンサーで被介護者臀部脚部の位置・角度と介護パンツの四隅を立体的に検知し、安全に無理なく、しっかりと着脱を行なう工夫が求められます。容易くはないでしょうが、現在では食品加工機械など人手でなければ不可能とされた作業も自動化が進んでいますので、現在の技術力でも解決できるのではないでしょうか。

 

AI、Iotを総動員

 

 隠密性と清潔さを保つため、脱臭機能や防音性能に加え、介護パンツは、1日分程度を想定し、4~5枚は積載しておきたいですし、消費したパンツも上手く車椅子に収納し、簡単に廃棄できるようにせねばなりません。

 

 トイレットペーパーを不要とするため温風乾燥が望ましく、この意味でもバッテリーは必需品です。車椅子は電動走行機能を前提としていますが、一日の移動にシャワートイレ関連消費電力を勘案しても、電気自動車を動かすバッテリーの先進技術を思えば問題ないように思えます。

 

 細かいところでは、操作が困難な被介護者のため汚物の洗い残しがないか、温風乾燥が完了したかなどを検出するセンサーも求めたいところです。状況によっては横漏れ、はみ出しなどがあるでしょうから、そうであっても本人を不快としない下着の素材や装置の改良などに小技を考えるべきかもしれません。

 

 一方介護者の便宜として各装置にIotを施し、心拍数や体温、排泄状況を掌握して健康管理をする、介護パンツの使い切りや水タンク補充通知など装置のメンテナンス機能も必要です。

 

 これら条件を実現するとなると、相当大掛かりな装置となるはずです。装置のコストも軽自動車並となるかもしれません。ですが、例えそうだとしても、介護保険を適用するリースなどの国家政策として推進するのであれば、方策はあるでしょう。


 とにもかくにもソレで、本人しても介助者にしても最も辛い排泄介助の「悩み」から解放されるのであれば、AIやIoT、ロボット技術、全てを動員して最優先に取り組むべき課題といえます。

 

(社会部デスク)