時事旬報社

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ベーシックインカム:日本が天国となる日(2)

財源をどうするか

 前号で触れたスイスのベーシックインカム国民投票ですが、結局反対多数(77%)で否決されたとはいえ、無条件で全国民に毎月28万円を支給するという前古未曾有の試みでした。スイス政府がその財源をどう工面する予定であったのかについては不勉強なのですが、国際金融総本山のお国柄、全国民を給養しても足る「キャピタルゲイン」があるのかも、などと邪推するのは嫉妬の類いでしょうか。

 しかし産油国でもなく国際金融センターでもない日本では、そうはゆきません。現実を直視しながらベーシックインカム実現の可否を考えてゆかねばなりません。今回から、日本でベーシックインカムを実現するための「リアリティ」を考えてみたいと思います。

 

 

 もし日本でベーシックインカムを実施するとなると月額として「いくら」を支給することが妥当でしょうか。この制度開始の法理を憲法25条に置くとすれば、支給額は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保証する「額」でなければなりません。だとすると希望の党が想定した生活保護費の月額12万円は、一つの目安といえそうです。

 

 大雑把な計算ですが、独身単身者が一人で生活するための最低支出は、概ね以下の辺りではないでしょうか。

  • 家賃      40000円
  • 食費      32000円
  • 電気水道光熱費 15000円
  • 通信費      5000円
  • 被服・美容代      3000円
  • 公租公課           10000円
  • 保険料                 5000円
  • 雑費                   10000円

 (合計)       120000円


 無職であれば税金も最低額でしょうが、NHKを視聴するだけで毎月1260円が必要となるので公租公課で一万円程度は避けられません。またこのご時世で携帯やインターネットのない生活も考えられないので少なくとも5000円の通信費は必要です。病気に備え保険料も欠かせません。憲法25条は、「健康で文化的」生活を保証しているのですから、支出用途自由な雑費一万円が無くなれば文化的生活とは言えなくなってしまいます。

 ベーシックインカムとなれば年金制度は不要となりますので公租公課から年金は外しました。


 月額12万円でも、車がないと生活できないような遠隔地に居住している場合は、この中からマイカー維持費を捻出せねばならず楽な生活ができる支給額ではありません。不足分は仕事をして補えばいいわけですが、ベーシックインカムは近い将来国民全員が従事するべき仕事の絶対数が無くなることを想定しているのですから、「仕事をする」を計算にいれてはいけません。


 ということで、ここでは「国民全員に月額12万円を支給する」を前提に実現可能性を考えてゆきましょう。

 

 単身者月額12万円の生活は余裕がありませんが、夫婦となれば24万となるので幾分か楽になります。また子供が生まれれば、その分増額となりますが、ここでの試算としては、20歳以上の成人は一律月額12万円20歳未満は月額5万円として「実現」を検証します。 夫婦二人と子供二人で、月額34万円。ベーシックなインカムとしては、この辺りが相当であるように思えます。

 この条件で必要な年間財源を試算すると以下の通りです。

 

(試算)

 日本の人口  1億2500万人

 内 20歳未満の人口   2200万人

   20歳以上の人口   1億0300万人


   20歳未満への年間支給額総額  13兆2000億円

   20歳以上への年間支給額総額 148兆3200億円 

 

 必要な財源は、何と年間161兆5200億円に達し、現状の歳入(税収60兆+赤字国債発行40兆)を大幅に上回ります。到底実現可能とは思えません。ですが、もう少し検討を進めましょう。


 「山崎元氏の試算によれば、現在の年金、生活保護費、雇用保険、児童手当や各種控除資金をベーシックインカムに転用すれば、日本国民全員に毎月46000円の支給が可能(前号)」ですので、今のままでも69兆円は確保できます。問題は残り92兆円をどうするか、です。

 ここで現在でも多用される通貨発行益(つまり国債を発行し、日銀が回収するカラクリ)をそのままベーシックインカムに投入すれば、更に40兆円を確保できます。残額は52兆円です。

 さらに消費税1%増額は年間税収2兆円に相当するとのことですから残額を全て消費税で賄うとすると消費税額を26%に引き上げれば、ベーシックインカムの財源を確保できることになります。

 ただしこれは国家の年間歳入を全てベーシックインカムとして国民に給付してしまう計算ですので、国防費や行政サービスを維持する国家予算を勘案すれば、現実問題としては消費税を35~40%とするか、その他の税金を増税するなどしなければなりません。

 

 ソロバンをはじけば、かなり無理な非現実的な話です。ですがポイントは、「ソレデモ、やろう」と私達が決意するのであれば、全面的にリアリティが否定される「大ボラ」ではない、ということです。


 「大ボラではない」ことを前提に次回から財源以外のベーシックインカム実現の課題を追って行きます。


(続く)

社会部デスク